つなぎ手となって、地域の資源を活かす

●たたら製鉄と神話、そして伝統工芸

島根県仁多郡奥出雲町にある「日刀保たたら」は世界で唯一、現在でも和鉄を生産し、刀鍛冶などへ提供している。江戸時代から明治時代にかけて奥出雲地方の「御三家」と称された鉄山経営者のうち、櫻井家と絲原家の2つがこの町にある。
古くは『古事記』に鉄と縁の深い神話が記されており、八岐大蛇を退治したスサノヲノミコトが降臨したという「鳥髪(現:鳥上)」が当地に特定されている。
また、たたら製鉄経営に不可欠であった「そろばん」の産地でもある。現在、日本の二大産地として播州そろばんと雲州そろばんが並び称されており、伝統工芸士により高級品の製造も続けられている。

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●整備された博物館施設

「鉄師御三家」の絲原家と櫻井家は、それぞれの居宅が国登録有形文化財、国指定重要文化財に指定されている。また、両家とも所蔵する資料を「絲原記念館」「可部屋集成館」の博物館施設で公開し、それぞれの公益財団法人によって運営している。
行政においては、奥出雲町、雲南市、安来市で構成する「鉄の道文化圏」のプロジェクトの一環で整備された「奥出雲たたらと刀剣館」「たたら角炉伝承館」を運営している。また、そろばんに関しては、行政が運営する「雲州そろばん伝統産業会館」、雲州そろばん協業組合が運営する「そろばんと工芸の館」がある。平成21年には「鉄の彫刻美術館」もオープンした。

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●博物館をつなぐ

奥出雲町は、平成17年、仁多町と横田町の合併により誕生した。合併前から、行政の運営する博物館施設はパートの受付担当のみで常設展の充実や企画展などを行うことはなかった。とりわけ合併後、それぞれのミュージアムがもつ意義、地域における価値や可能性を語られることは少なくなっており、複数館のかけもちででも学芸員の配置が求められていた。
平成24年、奥出雲町は「神話とたたらの里推進室」を設置。ここで、1名の室長と2名の学芸員が博物館事業と観光振興事業に取り組むことになった。学芸員は、公設、民設を問わず、町内にある博物館施設の調査、展示、学校の利用促進、セルフガイドの開発などに携わっている。
また、行政においては、博物館の所管が地域振興課、観光振興課、教育委員会と分かれているため、「神話とたたらの里推進室」がこれらをつなぐ役割を担っている。

●博物館と景観をつなぐ

奥出雲町は、平成23年度に景観計画を策定した。そして平成26年、たたら製鉄関連の砂鉄採取やその跡に開いた棚田などが文化庁により「重要文化的景観」に選定された。この景観の保全と活用の拠点を「奥出雲たたらと刀剣館」に置き、景観を通して「自然と人の共生」を体感するためのビジターセンターとしての機能を目指している。

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●博物館と地域をつなぐ

教育面でも地道な活動を続けてきた。「たたら製鉄の町」として、町内の小学6年生全員が、たたら製鉄の一連の作業を体験する。また、中学生の日刀保たたら高殿での体験活動は20年間続いている。
一方、雲州そろばん伝統産業会館では、国際交流、交際協力事業に取り組んできた。世界でそろばんを学ぶ人たちの受入れと交流、そろばん教育の普及協力、地元の中学生をそろばん大使として派遣、そろばん製造技術の公開などを行ってきた。

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●博物館と産業をつなぐ

博物館の設置とその活動によって、奥出雲町では「たたら製鉄」「そろばん」「神話」をテーマとした交流によって、資源をブラッシュアップし、町の魅力を高め、交流産業へとつないでいる。
「ランチカタログ」に掲載する店舗は39軒にのぼる。昼食の提供やお土産品の開発・販売、また宿泊などにおいて、後継者がUターンし新しい感性で営業している店舗も少なくない。ものづくりや農産物のブランド化で成果を上げてきた奥出雲町に、サービス産業が広がっている。
今後、観光において個人やグループを対象とすること、滞在時間を延ばすこと、リピーターを増やすことを目標としてガイド養成や旅のサポートを行っている。旅の企画、イベントや体験活動の催行、案内マップやカタログの作成、JAFとの包括協定締結、観光関連事業者とのワークショップなどである。観光における地域事業者と博物館のつなぎ手ともなって、より質の高い交流効果の拡大を試みている。